失音楽とは
失音楽 amusiaとは,後天的な脳の障害によって様々な音楽の能力が障害された状態で,歌えない,演奏できない,楽譜が読めない・書けないなど多様な症状が含まれています.また近年になると,音楽能力の先天的な障害(いわゆる音痴)も失音楽に含まれるようになり,先天性失音楽 congenital amusia という用語も提唱され,盛んに研究が行われています.
楽譜の読み書き障害
楽譜は音楽を記号で表したものですが,音楽を楽しむために必ずしも必要という訳でもなく,また音楽を楽しんだり音楽を表現する人たちの全てが楽譜の読み書きが出来る訳ではないので,失音楽の中でもそれほど多くの研究がある訳ではありませんでした.
しかし,楽譜の読み書きは,作曲家のように幼い頃から楽譜に日常的に接し,読むだけではなく書くことも非常に頻繁にしている人もいれば,演奏はするけれど楽譜は読むことがほとんどのような人がいるように,文字と比べて習熟度に差があることも特徴としています.
このようなことを反映し,ロシアの作曲家シェバリーンは,失語症になってからも作曲活動を続けることが可能でしたが,我々が報告したピアノ教師の患者さんは,失語症になってから楽譜を読んだり書いたりすることが著しく困難となってしまいました.
また,この患者さんは音符に書かれた音の上がり下がりは判断できましたが,リズムを読んだり書いたりすることが著しく困難だったことから,音の高さの読みとリズムの読みは異なって処理されることを明らかにしました.
楽譜の読み書きはともに障害されることが少なくありませんが,我々が報告したピアノ教師(上記とは別な方です)の患者さんは,楽譜を読むことは可能でしたが楽譜を書くこと,特にリズムの表記が難しくなりました.このことから,楽譜を読むことと書くことが脳の中で異なっていることや,リズムの表記の神経基盤について明らかにすることができました.