心理機能の神経心理学的理解

一過性てんかん性健忘

てんかんの患者さんの中には,明らかな発作が見られないのに,健忘症状が目立つ一過性てんかん性健忘(transient epileptic amnesia (TEA))と呼ばれる症状を示すことがあります.

このような患者さん達の中には,記憶検査では顕著な成績の低下を示さないのにエピソードから数週間が経過すると旅行に行ったことすらも忘れてしまう超長期的な前向性健忘(very-long-term anterograde amnesia)と数十年前の自信の結婚式や過去の重要なエピソードすらも忘れてしまう長期的な逆向性健忘(very-long-term retrograde amnesia)が生じることがあります.

ともに脳波の異常が影響すると考えられていますが,長期的な前向性健忘については,脳波の異常が記憶の固定化(consolidation)を阻害し,長期的な逆向性健忘については,記憶痕跡そのものを消し去ってしまうと考えられていましたが,これまで脳波の異常との関連については分からないことが多くありました.

そのような中で,私たちの研究チームは,抗てんかん薬の治療の経過の中で,超長期的な前向性健忘は改善する一方で,超長期的な逆向性健忘で失われた記憶は改善しないことを確認し,超長期的な逆向性健忘が不可逆的な過程であることと,記憶の固定化が複数の段階を経ることとを臨床的な立場から確認しました.

脳梁無形性における脳梁離断症候

脳梁とは,左右の大脳半球をつなぐ太い神経線維で,事故や病気あるいは手術などで損傷されると,利き手ではない方で文字を書くことができなくなったり,視野の一部(多くは左側)に呈示された文字が読めなくなる等の症状が出ることが知られ,脳梁離断症候と呼ばれています.

一方で,脳梁が生まれながら形成されないまま過ごしている方々もいます.胎児期や乳幼児期に診断される方も少なくありませんが,中には大人になって偶然に脳梁無形性が発見されることもあります.

不思議なことに先天的に脳梁が形成されていない方々では,先の脳梁離断症候がほとんど認められないことが知られ,中には知的能力も長けている人もいます.しかし,そのような方々でも何らかの違和感を持って過ごしていることがありますが,客観的に把握することができませんでした.そのような中で,私たちの研究チームは,幾つかの知覚運動課題で,明らかな左右差(離断症候)を確認することができました.

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